出会い…出遭い?

街とは、不思議な空間である。
とりわけ、ここ『グラン・ノイ』の首都『ペネム』は世界でも特殊な場所と言えた。
他を寄せ付けない風習の多い中で、これほど外交が盛んで活気に溢れる街は少ないだろう。
『フェンタサ』や『カルスロット』は未だ禁交令を維持しているらしい。
他国の文化や風習で自国を染められたくない、ということもあっただろうし、外交に加われば
連合の監視が強くなり、好き勝手出来なくなるという理由もあっただろう。
実際『カルスロット』は悪い噂が絶えないし、『フェンタサ』では近々内乱が起こるという噂だ。
良くも悪くも、禁交令はそのうちなくなるだろう。
とすると、困るのは周辺地域である。
難民や素行の悪い方々が街に溢れることになるのだ。堪ったものではない。
とにかくそこらに比べ、この『ペネム』は比較的穏やかで明るい街だった。
国王の気質が知れるというものだろう。
自国の物産を特産物として売り出していながらも、他国の輸入物を蔑ろにしない。その気質もあってか、街中には様々な人種が溢れている。
先程ちらりと見えた黄色の尻尾を持つ男は、『フロリネフ』の者だろう。躯の一部のみのみとはいえ、獣の器官を持つ人種は非常に珍しい。南から北まで、東から西まで、まるで人種の標本市だ。


(まぁ、基本的にどうでもいいんですけどね、その辺りは)
右腕の紙袋を抱えつつ、『その人』は軽く嘆息した。
暗い藍色の紙は腰近くまで伸び、淡い紫色のリボンで背中の真ん中あたりで緩く纏めている。
俯き加減の瞳は、リボンと同じ紫色。地面を見ているようだが、見ようによってはどこか遠くを見つめているようにも感じられる。
そして、驚くべきはその容姿である。す、と通った鼻筋に淡い色の唇。マッチが何本乗るだろうかと思われるほど長い睫毛は、だが濃くはなく、白い肌に違和感を与えない。寒さの所為か僅かに紅潮した頬は恥じらっているようにも見える。ともすれば冷たい印象を与えるほど整った容貌は、常に微かに浮かべている微笑によって、優しい雰囲気を纏っている。
冬用のコートを着ているため躯のラインは判らない。しかし、その顔の細さ、小ささを見るに、それに見合ったスマートな体型であることを想像させる。
(それにしても、寒くなりましたねぇ…)
自分に向けられる好奇の視線などまるで知らないように、よ、と荷物を抱え直し、もう一度溜息をつく。
吐く息が白い。
まだ雪は降らないだろうが、これでは旅人の足も遅くなってしまう。
(今回は急ぐ旅じゃなくて、助かりました)
3年に一度の定期検診。
それでも時間の余裕はたっぷり持って出発したのだから、急ぐことはない。
一ヶ月半かけて、ゆっくり行けばいいのだ。
『あの兄妹』がいたるところでのんびり観光を始めたところで、なんの問題もないだろう。
(早く帰って、温かいコーヒーでも飲みたいですねぇ…)
買い物は、すでに終わっていた。
三軒ほどで用を済ませた『その人』は、宿に戻る途中だった。
『あの兄妹』の為の冬のコート、『あの兄妹』の為の食料品。そんなものを抱えながら、『その人はぼんやり考える。
(そういえば、今日の夕飯はどうしましょうかねぇ…。ロールキャベツはこの間やったし、グラタンは昨日の昼に二人で食べたと言っていたし…)
なるべく少ない旅費で済むよう、宿は食事を自分で作れるところにする、と『あの兄妹』の『兄』が言い出すものだから、こんなことに頭を悩ませてしまっている。
(あ)
思いついて、立ち止まる。
(ハンバーグにしましょうか)
そうと決まれば、もう一度方向転換。
振り向いたところに、
「………っ」
「ってぇなぁ! 何処見てやがんだぁ!?」
荷物を抱えていた腕が、傍を歩いていた通行人にぶつかってしまった『らしい』。
腕から荷物がこぼれ落ちる。
「すみません!」
思わずペコリと頭を下げて、『その人』は地面に手を伸ばす。
しかしその手は空を切り、なかなか目的の荷物を掴めない。
「ぁれ…ぇ、と…………っ!?」
地面を彷徨う手をいきなり掴まれたと思うと、上に引っ張り上げられる。
「おいおい、まさか『すみません』だけで済むなんて思ってねぇよなぁ!?」
ガラのよろしくない男だ。
一言で現すなら、そう言うしかないだろう。
さながら美女と野獣。
引っ張り上げた腕を自分の方へ引き寄せ、強引に顔を上向かせる。
ゴリラのような男と儚げな美女のツーショットに、周囲が『ヒ…ッ』と息を飲む。
しかし、今にも乱暴されそうな『その人』は未だに視線を地面に向けながら、上を向こうともしない。
「おい、ねぇちゃん! ぶつかったらそれなりの礼ってモンがあるんじゃねぇのかぁ!?」
周囲は誰も助けようとしない。
いくら襲われているのが美人だからといっても、自分から厄介ごとに首を突っ込むほどのお人好しは滅多にいないのだから、当然と言えば当然である。
絶体絶命、と誰もが思う中、一人冷静な人物がいた。
(…困りましたねぇ…どうしましょうか…)
絶対絶命に陥っている本人である。
(一人…か。まぁ、ただのゴロツキでしょうね……それなら…)
『その人』が密かな決意をした、その時。

ズゴン!

「ガッ…ぁ!?」

突然、腕を掴んでいた男が吹っ飛んだ。
と、同時に、その勢いに細い躯を取られ、『その人』まで倒れ込む。
「ぁ……っ!?」
バランスを取り損なったのか肩から地面に倒れ、『その人』が呻いだ。
「大丈夫っすか!?」
降って湧いた第三者の声は、若い男性のもの。
その方向に目を向け、『その人』は唖然とした。
(……光…?)
太陽に、金の髪が反射する。
思うように跳ねた金髪は、太陽光さえ跳ね返し輝いていた。
眩しいほどの、光。



それが、彼らの出会いだった。






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